【光明寺(こうみょうじ)の聖観音(ひじりかんのん) 】【B】
むかしな。
どろうほうがおっての、光明寺の仏さんを盗みに入った。
三日月の夜じゃ。
ほうかむりをして、ぬき足、さし足、あたりをキョロキョロと見回しながら、用心深う本堂に入っていった。
「ヘッヘッヘッヘ、こんなにたやすう入れるとは思わなんだわい」
そう言うてな、
「よいしょ」
と仏さまを抱(かか)えて出てきた。
それから、あたりをキョロリキョロリと
「おかしい、確かにここへ仏さまを置いといたんじゃが……」
「あんた夢でもみたんでしょう。ねぼけなさんな」
どろぼうは女房にさんざんからかわれて、首をかしげかしげ帰っていった。
さて、次の日、どろぼうは女房をさそってお寺参りをしてみたんじゃ。
なんとまあ、仏さまはちゃんと本堂にいらっしゃる。
「どうじゃ、りっぱな仏さんじゃろう。これなら盗みがいがあるじゃろう」
と小声で言うた。
夜になった。どろぼうは、女房に見張りを
このときはイラストの展示会が催されていました。
見回しながら歩きだした。
「や、や。だんだん重とうなってくるぞ。こりゃあ重たい」
へっぴり腰で石段のところまでくるとな、仏さまを置いて一休みした。
さて、もう一度持ち上げようとしたが、どうし
たことか仏さまが動かん。
根が生えたように動かんのじゃ。
「こりゃあどうしたことじゃ、びくともせんのー。女房を呼んでこよう」
どろぼうは急いで女房を呼んできたんじゃが、今度はどこへ行かれたのか、仏さまがいらっしゃらない。
第12代横綱陣幕久五郎自作自筆の句碑
させて、きのうの晩と同じように、ぬき足さし足で入っていった。
「ヘッヘッヘ、なんと不用心なんじゃ。きのう仏さまが持ち出されたいうのに戸もろくに閉めておらん。戸締まりぐらいしておけってんだ」
ぶつくさ言いながら仏さまを女房に手渡した。
「これぐらいなら私でも持てる」
そう言うとった女房じゃがの、
「あんた、やっぱりだんだん重うなるわ」
二人でようようさげて、やっと石段のところまできた。
一休みして持ち上げようとしたが、動かん。
「不思議じゃ。二人がかりでもどうにもならんのー」
二人はあきらめて、仏さまをほっちらかして帰ってしもうた。
どろぼうは、このことをどろぼう仲間に話した。
「なに、石段のところまで来ると動かんようになる? そんなことがあるもんか、わしが盗みだしてやる」
そう言うて、もうひとりのどろぼうも、やっぱりほうかむりをして出かけて行った。
「ははん、この仏じゃな」
やっぱり、あたりをキョロキョロ用心しながら出てきた。
石段までくると、
「こりゃあ、だんだん重とうなってきた。どうにもならん」
「おや急に腰が痛うなってきたぞ、ばちがあたったかな」
このどろぼうもぶつくさ言いながら仏さまを置いて、腰をさすりさすり帰っていった。
このことを聞いた力自慢のどろぼうが言うた。
「どいつもこいつも腰抜けばかりじゃ。
小僧さんに見つかってしもうた。
「どろぼう!」
後ろからとたんに大声を出されたんで、腰が抜けた。
どろぼうは、
「こりゃあいけん」
言うて、草履(ぞうり)もぬぎすてて、はいはいしながら逃げて行った。
その後、この立派な聖観音は何度も持ち出されそうになったが、境内より外に出ることはなかったそうじゃ。
(「尾道のむかし話」 西原通夫著 尾道弁)
どれ、わしがやったろう。どろぼうにも意地というもんがある」
何が支えているのでしょうか? とにかく尾道は、昔から花崗岩の加工品が多いですね。
そして真夜中、一人で光明寺へ出かけた。
「ヘッヘッヘッヘ、こんな仏さまを盗むのは
朝飯前、軽いもんじゃ」
一度抱きあげた仏さまを下ろして、線香(せんこう)を立てた。
それから、かねをチーンと鳴らしておがんだ。
「なんまんだあ、なんまんだあ」
鼻歌を歌いながら石段のところまで来たとき、