【伝説 雷と千光寺山の大松】
千光寺山頂に杉原民部太夫元恒の築城した権現山城の跡に、千畳敷という平地があります。その東北に八畳岩という大きな岩があり、そこに物見やぐらが建っていました。物見やぐらからは木ノ庄町木梨にあった杉原氏本城鷲尾山城が望まれ、また尾道もひと目で見渡せたそうです。
その物見やぐらの跡に、大きな古松がひときわ高くそびえていました。人々はその松を「物見の松」と呼んでいました。
ある日のことでした。一天にわかにかき曇って
腹を立てた雷はその松に落ちました。「物見の松」はほんの少しやけどをしただけでびくともしませんでした。
雷は、「物見の松」の態度と勇気に感心し、仲直りをして、それからは時々遊びにきました。
どんなな雷が来ても、どんなに雷が暴れても、この松が避雷針代わりになって、町には被害がなく、人々は身代.わりの松とも呼んでいたそうです。
その松も、昭和三十二、三年ごろまでは、見事な枝をひろげていましたが、再三の落雷のために、今ではその姿をとどめてはおりません。
大雨となり、稲光がはしり、すさまじい雷鳴がとどろき、今にも雷が落ちるかと、みんな生きた心地もなく、蚊帳を吊って中で震えていました。
雷はみんなが恐がるのを見て、思う存分に大暴れをし、さて何処へ落ちようかと見回しました。
すると、人々も木も山までも恐れて
小さくなっているのに、八畳岩の「物見の松」だけは、尾道の町を雷から守るように枝を広げ、き然と空を見上げて立っているのです。
雷はわしを恐れないやつがいるのかと、松の木の真上で、なおも暴れ廻りました。でも、松の木は相手になりません。