「鼓岩とお姫様」
戦国の世、千光寺山には木梨山城主(木ノ庄町)杉原氏の出城「権現山城」がありました。
城にすぐ近い南の山道にある大岩は、お姫さまや、若君のこの上ない遊び場でした。
大岩は、優しい奥方さまやお姫さまが大好きで、お城から聞こえてくる琴や鼓の音に、うっとりと聞きほれていました。
コロコロ コロコロ コロリンシャン
ポン ポンポン ポン ポンポン
「ポンポンポン」
と口ずさんでみました。とても愉快な気分です。こんな気分は初めてだと、それからは毎日、鼓の音が聞こえはじめると、小さな声で 「ポンポンポン」
とロずさむようになりました。
「誰かに聞かれていないかな」
そっとあたりを見回します。
「しめしめ、だれもいないぞ」
今度は、少し大きく
「ポン ポンポン」
大岩はだんだん上手になって、誰かに聞いてもらいたくなりました。
展望台に出ました。
東側の景色。
大岩は毎日が宴のように楽しい気分でした。特に、ポンポンポンと軽やかな鼓の音に、心が弾みます。最初は同じように聞こえていた鼓の音も、よく耳を澄まして聞いていると、少しずつ違いがわかってきました。「ポンポンポン」と力強く歯切れのよいのは奥方さまの鼓の音、
「ポンポンポン」とそれからは毎日、鼓の音が聞こえはじめると、小さな声で
「ポンポンポン」優しいまろやかなのはお姫さまの打つ鼓の音です。
ある日、大岩は、城から聞こえてくる鼓の音にあわせて
東側の景色。
東南側の景色
南西側の景色
そんなところへ、 奥方さまやお姫さま、若君が、侍女たちをつれて遊びにやって来ました。
若君は大岩に上がると、大喜びでヨイショ、としこを踏みました。大岩は思わず、「ポン ポポン」と声を出してしまいました。「あら」とみんな不思議に思いました。
確かにそれは鼓の音のようでした。侍女が試しに小石を取って大岩をたたいてみると「ポン ポポン」と響くのです。その音が、得意満面に張り上げた大岩の声だとは誰もわかりません。
「まあ」とみんな感嘆の声を上げ、競って大岩をたたいてみました。
「ポンポンポン ポポポンポン」と、軽やかな音が返ってきます。
「お母さま、この岩を鼓岩と呼んだらいかがでしょう」
「鼓岩、それはいい名前ですね」
大岩は、お姫さまに
とてもいい名をつけてもらって大喜びでした。それからというもの、お姫さまだけでなく、殿さまや家来までもがやってきて、鼓岩を打ち鳴らしました。
しかし、このような平和な日々も長くは続きませんでした。ある夜、敵が奇襲をかけてきたのです。不意をつかれて刀や槍をとるのがやっとのありさまです。殿さまは、奥方やお姫さまを抜け道からそっと逃がすと、自害して果てました。
胸がはちきれそうでした。
戦から既に数百年が過ぎました。しかし、鼓岩はお姫さまのことを思い出すと、心が痛むのでしょうか、打てば今も「ポン ポンポン」と、優しい音を返してくれます。それは、お姫さまや奥方のごめい福を祈る響きに違いありません。
尾道民話伝説研究会 編「尾道の民話・伝説」 (2002年5月刊)より転載
展望台の上は一直線です。(長さ63m)
南西側
城から抜け出たお姫さまたちは、暗闇の中を、いばらに足を取られ、石につまづきながら、どうにか鼓岩みたどり着きました。そうして後ろを振り返って見ると、城の方角は赤い炎が空高く燃えさかっていました。
「ああ、城が燃える、お父さま……」
「ぐずぐずしていては追っ手がきます。ささ早く」
侍女に促されて奥方や姫君は泣く泣く足を引きずりながら、鼓岩のそばを通り、ふもとへ下りていきました。
鼓岩は、あれほど可愛がってくれたお姫さまや奥方の落ちのびる姿を見て、