千光寺山 山頂
尾道市東土堂町  標高:144.2m
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「鼓岩とお姫様」

 戦国の世、千光寺山には木梨山城主(木ノ庄町)杉原氏の出城「権現山城」がありました。
 城にすぐ近い南の山道にある大岩は、お姫さまや、若君のこの上ない遊び場でした。
 大岩は、優しい奥方さまやお姫さまが大好きで、お城から聞こえてくる琴や鼓の音に、うっとりと聞きほれていました。
 コロコロ  コロコロ  コロリンシャン
 ポン  ポンポン  ポン  ポンポン
「ポンポンポン」
と口ずさんでみました。とても愉快な気分です。こんな気分は初めてだと、それからは毎日、鼓の音が聞こえはじめると、小さな声で 「ポンポンポン」
とロずさむようになりました。
「誰かに聞かれていないかな」
そっとあたりを見回します。
「しめしめ、だれもいないぞ」
今度は、少し大きく
「ポン ポンポン」
 大岩はだんだん上手になって、誰かに聞いてもらいたくなりました。
 展望台に出ました。
 東側の景色。
 大岩は毎日が宴のように楽しい気分でした。特に、ポンポンポンと軽やかな鼓の音に、心が弾みます。最初は同じように聞こえていた鼓の音も、よく耳を澄まして聞いていると、少しずつ違いがわかってきました。「ポンポンポン」と力強く歯切れのよいのは奥方さまの鼓の音、
「ポンポンポン」とそれからは毎日、鼓の音が聞こえはじめると、小さな声で
「ポンポンポン」優しいまろやかなのはお姫さまの打つ鼓の音です。
 ある日、大岩は、城から聞こえてくる鼓の音にあわせて






 東側の景色。
 東南側の景色
 南西側の景色
 そんなところへ、 奥方さまやお姫さま、若君が、侍女たちをつれて遊びにやって来ました。
 若君は大岩に上がると、大喜びでヨイショ、としこを踏みました。大岩は思わず、「ポン ポポン」と声を出してしまいました。「あら」とみんな不思議に思いました。
確かにそれは鼓の音のようでした。侍女が試しに小石を取って大岩をたたいてみると「ポン ポポン」と響くのです。その音が、得意満面に張り上げた大岩の声だとは誰もわかりません。
 「まあ」とみんな感嘆の声を上げ、競って大岩をたたいてみました。
「ポンポンポン ポポポンポン」と、軽やかな音が返ってきます。
「お母さま、この岩を鼓岩と呼んだらいかがでしょう」
「鼓岩、それはいい名前ですね」
 大岩は、お姫さまに






とてもいい名をつけてもらって大喜びでした。それからというもの、お姫さまだけでなく、殿さまや家来までもがやってきて、鼓岩を打ち鳴らしました。
 しかし、このような平和な日々も長くは続きませんでした。ある夜、敵が奇襲をかけてきたのです。不意をつかれて刀や槍をとるのがやっとのありさまです。殿さまは、奥方やお姫さまを抜け道からそっと逃がすと、自害して果てました。
胸がはちきれそうでした。
 戦から既に数百年が過ぎました。しかし、鼓岩はお姫さまのことを思い出すと、心が痛むのでしょうか、打てば今も「ポン ポンポン」と、優しい音を返してくれます。それは、お姫さまや奥方のごめい福を祈る響きに違いありません。

尾道民話伝説研究会 編「尾道の民話・伝説」 (2002年5月刊)より転載
 展望台の上は一直線です。(長さ63m)
 南西側
 城から抜け出たお姫さまたちは、暗闇の中を、いばらに足を取られ、石につまづきながら、どうにか鼓岩みたどり着きました。そうして後ろを振り返って見ると、城の方角は赤い炎が空高く燃えさかっていました。
「ああ、城が燃える、お父さま……」
「ぐずぐずしていては追っ手がきます。ささ早く」
 侍女に促されて奥方や姫君は泣く泣く足を引きずりながら、鼓岩のそばを通り、ふもとへ下りていきました。
 鼓岩は、あれほど可愛がってくれたお姫さまや奥方の落ちのびる姿を見て、










 南側(向島)
 西側の景色。
 展望台の上(一直線)
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