【浮島の弁天様】
昔、上依知村の辺りを流れる相模川の中ほどに、浮島と呼ばれる小さな島がありました。この島には弁天様が祭られていて、村人たちの信仰を集めていました。ふだんはいたってのどか
な島でしたが、大雨で相模川の水かさが増えるたびに、島に当たって流れを変えた川の水が土手(どて)を破り、辺りの田や畑を水びたしにしてしまいました。そのために、お百姓さんたちは、たいそう困っていました。
この様子を見て、お役人が、浮島を爆薬で壊
してしまおうという話を持ち出しました。「と、とんでもねえことだ…あの島には、わしらのご先祖様が祭った弁天様がいらっしゃるのじゃ。そんなことをしたら、ばちが当たりますだ」。お百姓さんたちは、唇を震わせながら反対しました。でも、話を聞いているうちに、大水から畑を守れるということがわかり、お百姓さんたちは、島を壊すことを承知しました。工事の日がやってきました。その日は、朝から雲一つなく晴れ渡り、空がどこまでも澄んで見えました。お生さんたちが見守る中で、
ように走り、たたきつける弁天様が祭られている社が二つ三つ大きく揺れました。すると、「ドカーン!」という爆発音とともに、島の岩が砕け、土や砂が飛び散りました。
そして、ときにはお百姓さんたちの信仰を集め、また、ときにはお百姓さんたちを悩ませた浮島が、川の流れの中に姿を消していきました。けれども、川の中にはじき飛ばされた弁天様の社は、不思議なことに壊れないで水面に浮きあがり、向う岸の磯部(いそべ)村に流れ着きました。もともと、弁天様は磯部村にある仏
印ばんてんを着た人や、頭にはちまきをした人たちが仕事を始めました。この様子を見て、お百姓さんたち、「フー…」と大きなため息をつきました。
ため息をつくのも無理がありません。昔から、近くに住むお百姓さんたちの信仰を一心に集
めてきた島の木が全部切り倒されたのですから…。続いて島の爆破です。島のあちこちに火薬がつめられました。火薬に火がつけられました。するとあれほど晴れわたっていた空が、真黒い雨雲におおわれました。「ダーン!」耳をつんざくような音を伴って、稲妻が空を引き裂く
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像院というお寺のものでしたから村の人たちは喜人でこの社を拾いあげ、大切に仏像院に納めました。その日から、不思議なことが起ったということです。上依知村の作兵衛が、しとしとと雨の降る日に、川の見回りに出かけると、松林の中で、島田姿(しまだすがた)の女の人が目
に留まりました。しょんぽりとした後(うしろ)ろ姿ような雨が降り始めました。その時です。を見て、気になった作兵衛は、声をかけようとして、その女の人に近づいて行きました。すると、どうでしょう…女の人は足音も立てずに歩いて行ったかと思うと、大きな松の木の根元
のところで、すーつと消えてしまったのです。驚いたのは作兵衛です。尻もちをついたまま、しばらくはロをもぐもぐ動かしているだけでした。
しばらくして、我にかえった作兵衛は、まっさおな顔をして近くの船頭小屋に転がり込みま
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