むかし、四国のお城のできごとじや。ある日殿様が奥方の部屋にやって来たら、なんと奥方が二人いるんじや。びっくりした殿様は、どっちがほんとうの奥方か目を大きくあけてしっかりと見たけどわからん。声をかけたら二人とも私がほんとうの奥方ですと同じ声で話すのじゃ。困った殿様は家来たちを呼んでの、せんぎをした。家来の一人がの、こりゃあキツネが化けとるに違いないと言いだしたのじゃ。
そこで、奥方を一人ずつ別の部屋に呼ぶことにした。一人目の奥方が呼ばれた。奥方は何ごともなくいつものように、しずしずと廊下を歩いたのじや。次に二人目の奥方
国を出ていきます」と言うたそうな。
お城の人たちはの、いたずらキツネたちが出ていくと言うたので、許してやった。じゃがの、すぐまた四国にもどってくれては困る、そこでキツネに言うたのじや。
「もうこの四国には、キツネは住むことあいならん。じゃがの、四国と本土の間に鉄の橋でもかかりや、戻ってきてもいい」
キツネはの、泣く泣く四国を出たそうな。そして、備後の鞆に上がったそうじゃ。それから各地へ散らばったのじゃろうよ。
尾道のいたずらキツネたちも、もしかしたら四国からキツネかもしれんのう。
尾
道
大
橋
が呼ばれた。着物の前をちよっと持ち上げての、しずしずと廊下を歩きはじめた。後に従っていた寺女がの、奥方の着物の裾を見ておどろいた。なんと着物の下からりっばなキツネの尾がちらちらとゆれとるのじや。
「ややや、キツネじゃ」と思うたが、家来たちの待つ
部屋までは、黙って案内したそうじゃ。
そうやって、とうとうキツネは捕らえられたのじゃ。そのキツネは、四国のかしらだった。そしての、
「こらえてください。もう決していたずらはい たしません。許してくださったら、一族を引き連れてこの四
おおそうじや、この前尾道から四国へ向けて、しまなみ海道ができた。キツネにとっちや、鉄の橋じゃ。本土に渡ったキツネたちが、月のええ晩に喜んで四国へ帰つて行ったというたよりが聞けるかもしれんのう。
尾道民話伝説研究会 編「尾道の民話・伝説」
(2002年5月刊)より転載