千光寺 → 市立美術館へ
距離:318m 標高 出発:96.6m 到着:118.7m 最高点:118.7m 最低点:90.5m
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 頼山陽
「盤石坐す可く松拠る可し 松翠……」

 広島市出身の歴史家、漢詩人。尾道には平田玉蘊など文雅の友が多く、幾度も訪れて詩を作った。
【民話 鼓岩とお姫様】

 戦国の世、千光寺山には木梨山城主(木ノ庄町)杉原氏の出城「権現山城」がありました。
 城にすぐ近い南の山道にある大岩は、お姫さまや、若君のこの上ない遊び場でした。
 大岩は、優しい奥方さまやお姫さまが大好きで、お城から聞こえてくる琴や鼓の音に、うっとりと聞きほれていました。
 コロコロ  コロコロ  コロリンシャン、
 ポン  ポンポン  ポン  ポンポン
 大岩は毎日が宴のように楽しい気分でした。
 特に、大岩は、毎日が宴のように楽しい気分でした。特に、ポンポンポンと軽やかな鼓の音に、心が弾みます。
 最初は同じように聞こえていた鼓の音も、よく耳を澄まして聞いていると、少しずつ違いがわかってきました。




「ポンポンポン」と力強く歯切れのよいのは奥方さまの鼓の音、「ポンポンポン」と優しいまろやかなのはお姫さまの打つ鼓の音です。
 ある日、大岩は、城から聞こえてくる鼓の音にあわせて
「ポン ボンポン」
と口ずさんでみました。とても愉快な気分です。こんな気分は初めてだと、それからは毎日、鼓の音が聞こえはじめると、小さな声で
「ポン ポンポン」
とロずさむようになりました。
「誰かに聞かれていないかな」
そっとあたりを見回します。
「しめしめ、だれもいな
侍女が試しに小石を取って大岩をたたいてみると「ポン ポポン」と響くのです。その音が、得意満面に張り上げた大岩の声だとは誰もわかりません。
 「まあ」とみんな感嘆の声を上げ、競って大岩をたたいてみました。「ポンポンポン ポポポンポン」と、軽やかな音が返ってきます。
「お母さま、この岩を鼓岩と呼んだらいかがでしょう」
「鼓岩、それはいい名前ですね」
 大岩は、お姫さまにとてもいい名を付けてもらって大喜びでした。それからというもの、お姫さまだけでなく、殿さまや家来までもがやってき








 この先の左側に市立美術館があります。
いぞ」
今度は、少し大きく
「ポン ポンポン」
 大岩はだんだん上手になって、誰かに聞いてもらいたくなりました。
 そんなところへ、 奥方さまやお姫さま、若君が、侍
女たちをつれて遊びにやって来ました。
 若君は大岩に上がると、大喜びでヨイショ、としこを踏みました。
 大岩は思わず、「ポン ポポン」と声を出してしまいました。「あら」とみんな不思議に思いました。確かにそれは鼓の音のようでした。








て、鼓岩を打ち鳴らしました。
 しかし、このような平和な日々も長くは続きませんでした。ある夜、敵が奇襲をかけてきたのです。不意をつかれて刀や槍をとるのがやっとのありさまです。殿さまは、奥方やお姫さまを抜け道からそっと逃がすと、自害して果てました。
 城から抜け出たお姫さまたちは、暗闇の中を、いばらに足を取られ、石につまずきながら、どうにか鼓岩にたどり着きました。そうして後を振り返って見ると、城の方角は赤い炎が空高く燃えさかっていました。
「ああ、城が燃える、お父さま…」
「ぐずぐずしていては追っ手がきます。ささ早く」
 侍女に促されて奥方や姫君は泣く泣く足を引きずりながら、鼓岩のそばを通り、ふもとへ下りていきました。
 鼓岩は、あれほど可愛がってくれたお姫さまや奥方の落ちのびる姿を見て、胸がはちきれそうでした。






 戦から既に数百年が過ぎました。しかし、鼓岩はお姫さまのことを思い出すと、心が痛むのでしょうか、打てば今も「ポン ポンポン」と、優しい音を返してくれます。それは、お姫さまや奥方のごめい福を祈る響きに違いありません。


尾道民話伝説研究会 編「尾道の民話・伝説」
(2002年5月刊)より転載