出たところを左に行くと千光寺の本堂です。
上が千光寺の本堂です。
もらって大喜びでした。それからというもの、お姫さまだけでなく、殿さまや家来までもがやってきて、鼓岩を打ち鳴らしました。
しかし、このような平和な日々も長くは続きませんでした。ある夜、敵が奇襲をかけてきたのです。不意をつかれて刀や槍をとるのがやっとの
ありさまです。殿さまは、奥方やお姫さまを抜け道からそっと逃がすと、自害して果てました。
城から抜け出たお姫さまたちは、暗闇の中を、いばらに足を取られ、石につまづきながら、どうにか鼓岩みたどり着きました。そうして後ろを振り返って見ると、
城の方角は赤い炎が空高く燃えさかっていました。
「ああ、城が燃える、お父さま……」
「ぐずぐずしていては追っ手がきます。ささ早く」
侍に促されて奥方や姫君は泣く泣く足を引きずりながら、鼓岩のそばを通り、ふもとへ下りていきました。
鼓岩は、あれほど可愛がってくれたお姫さまや奥方の落ちのびる姿を見て、胸がはちきれそうでした。
戦から既に数百年が過ぎました。しかし、鼓岩はお姫さまのことを思い出すと、心が痛むのでしょうか、打てば今も「ポン ポンポン」と、優しい音を返してくれます。それは、お姫さまや奥方の
ごめい福を祈る響きに違いありません。
尾道民話伝説研究会 編「尾道の民話・伝説」
(2002年5月刊)より転載